世界経済「失速」 IMF23年2.7%予測、利上げが強い圧力(写真=AP)
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ソース: https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN0903Y0Z01C22A0000000/
保存日: 2022/10/12 7:39
2022年10月11日 22:00
【ワシントン=高見浩輔】世界経済が失速するとの見方が強まっている。国際通貨基金(IMF)は11日改定の世界経済見通しで2023年の成長率見通しを下方修正し、米国と欧州、中国の経済を「失速」と表現した。インフレ抑制への世界的な利上げで、翌年度の予測としてはリーマン危機の当初よりも悲観的だ。世界はインフレへの懸念から、経済の落ち込みを警戒する局面に移る。
IMFは23年の世界の実質成長率予測を2.7%と、前回7月から0.2ポイント下げた。この時期に公表する翌年の見通しで3%割れを見込むのは00年以降では初めて。この半年での下方修正の幅はリーマン危機時を上回る。新型コロナウイルス禍からの回復局面が暗転し、世界経済の3分の1が景気後退に陥ると見る。
先進国の成長率は0.3ポイント下げて1.1%とした。コロナ禍とリーマン危機の時期を除くと41年ぶりの低水準だ。特に厳しいのがユーロ圏で、23年は0.5%と0.7ポイント下げた。米国は22年が1.6%と0.7ポイントの下方修正になり、23年も1.0%へ減速する。中国は22年に3.2%とコロナ禍を除けば過去40年で最も低くなり、23年も4.4%にとどまる。
失速の見方の背景には急速な利上げがある。JPモルガン・チェース銀行が経済規模で加重平均して算出した世界の政策金利は3%を超え、リーマン危機が発生した08年以来の水準になった。
今は利上げのスピードと広がりが大きい。国際決済銀行(BIS)が公表する世界の主な38カ国・地域の政策金利の動向や、最近の各国中銀の発表を基に日本経済新聞が集計したところ、9月は利上げが計24回に達した。これまでのピークは06年6月の18回だ。22年に入ってからの利上げはすでに160回にのぼる。
金融政策の国外への波及(スピルオーバー)がどれほどの相乗効果をもたらすか、事前の検証は難しい。JPモルガン・チェースのジェイミー・ダイモン最高経営責任者(CEO)は10日の米CNBCのインタビューで「米国や世界は今から6~9カ月後にある種の景気後退に追い込まれる可能性がある」と語り、警戒感をあらわにした。
今後の大きな問題は、世界的にインフレ圧力が強く、景気刺激のための利下げには簡単に転換できないことにある。
世界の高いインフレ率は長引き、IMFは24年も4.1%と高い水準になると予想する。インフレ抑制の利上げが続けば信用力の低い企業は資金調達が難しくなる。低格付け債の信用不安を起点に、クレジット市場などで混乱が起きかねない。
危機の芽は途上国にもある。「あまりにも多くの低所得国が債務危機に陥るか、それに近い状態にある」。IMFはこう警鐘を鳴らす。米利上げは途上国の通貨安につながり、ドル建て債務の返済負担が増す。
結果として、経済はさらに下振れするリスクがある。IMFは23年の世界成長率が2%を割り込む確率を25%程度とみている。懸念材料の一つが、ドル高にともなう世界的な金融引き締めの連鎖だ。ブラジルやポーランドなど一部の国は効果を見極めるために利上げを停止したが、輸入品の値上がりによる物価高が続けば、利上げが止まらなくなる。
20カ国・地域(G20)は12~13日、財務相・中央銀行総裁会議をワシントンで開く。ロシアへの対応を巡る参加国の溝は埋まらず、国際協調の欠如が世界経済のリスクをさらに高めている。
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• 分析・考察世界の経済成長率見通しは、改定の度に下方修正され、インフレ見通しは上方修正されるという傾向が、ロシアのウクライナ侵攻以降、続いている。 今回、最も大きく下方修正されたユーロ圏の23年見通しは0.5%だが、ここにきてロシアとの対立が先鋭化、冬場のエネルギー需給悪化懸念に対応した省エネ、節電の取り組みが、春先以降も、大きく緩和される可能性は低く、高インフレも持続しやすいことを考えると、年間のプラス成長は楽観的に見える。 リーマンショック後と異なり、世界同時不況回避のための政策協調も見込めない。 主要国・地域間の対立は世界経済を深く傷つけることになりそうだ。