FRB議長、侵攻の影響「極めて不透明」 会見要旨(写真=ロイター)
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ソース: https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN16EZ80W2A310C2000000/
保存日: 2022/03/17 8:08

2022年3月17日 5:14

FRBのパウエル議長=ロイター

米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長は16日、米連邦公開市場委員会(FOMC)終了後に記者会見を開いた。0.25%の利上げを決めた理由として「米経済は極めて力強い」ことや労働市場の逼迫、高インフレを挙げた。ロシアによるウクライナ侵攻が米経済に与える影響は「極めて不透明だ」として、注視する構えをみせた。主な発言と質疑応答は以下の通り。
まず、ロシアの侵攻によってウクライナの人々が受けている甚だしい苦痛への認識から始めたい。犠牲者は悲劇的だ。世界や米国の経済・金融への影響は極めて不透明だ。
きょう、我々は政策金利を0.25%引き上げると決めた。経済が極めて力強いこと、非常に逼迫した労働市場と高インフレを考慮し、我々は利上げが適切だと考えている。さらに、今後の会合で保有資産の縮小を開始する予定だ。
2021年の経済活動は(新型コロナウイルスの)ワクチン接種の拡大と経済再開を反映し、堅調に拡大した。「オミクロン型」の感染急拡大は今年に入り、経済をいくぶん停滞させたが、1月中旬以降に新規感染者は激減している。経済の減速は穏やかで短期間だったとみられる。
ウクライナ侵攻や関連する出来事は経済活動の見通しにとって下振れリスクとなるが、FOMCの参加者は底堅い経済成長が続くとみている。中期の経済・政策見通し(SEP)に示されるように実質国内総生産(GDP)の伸び率予測の中央値は、22年が2.8%、23年が2.2%、24年が2%だ。労働市場は極めて逼迫した状況が続く。今年1〜2月で雇用は100万人以上増えた。

失業率、低水準にとどまる

失業率は2月、パンデミック(世界的大流行)以降で最低の3.8%となった。これはFOMC参加者が予測する長期的な正常値をやや下回る水準だ。労働市場の改善は、低賃金の労働者、アフリカ系米国人、ヒスパニック系米国人など広範囲に及ぶ。
労働需要はとても強い。労働力人口は多少増えたとはいえ、労働供給量は依然として低調だ。雇用主は求人を満たすことに苦労し、賃金は長年でみて最も速いペースで上昇している。FOMC参加者は労働市場は堅調に推移し、失業率は今年末には3.5%まで低下し、その水準にとどまるとの見通しを示した。
物価上昇率は長期目標である2%を大きく上回っている。総需要は堅調だが供給制約が生産の迅速さを制限している。供給網の混乱は、(コロナ)ウイルスによって悪化し、想定より大きく長引いており、価格上昇圧力は幅広い財やサービスに及んでいる。エネルギー価格の上昇が物価全体の上昇に拍車をかけている。ウクライナ侵攻に伴う原油や他の商品価格の高騰は、短期的にさらなる上昇圧力となるだろう。
我々は高インフレが、食料、住居、交通など必需品のコスト増に対応できない人々に大きな苦難を強いることを理解している。強い労働市場を支えるために我々ができる最善のことは、長期的な景気拡大を促すことだ。それは物価が安定した環境においてのみ可能だ。

保有資産縮小へ良い進展

声明で述べたように、我々は金融政策の姿勢を適切に引き締めることで、労働市場が堅調なうちに物価上昇率が2%に戻ると予想している。ただしこれまでの予想より時間がかかるとみられる。参加者の物価上昇率予測は、21年が4.3%、22年が2.7%、24年が2.3%と低下していく。12月時点の予測よりずっと高く、参加者は引き続き上方リスクを警戒している。
FOMCはフェデラルファンド(FF)金利の誘導目標を0.25%引き上げたが、継続的な引き上げが適切だとみている。22年の予測の中央値は1.9%だ。12月時点の予想より1ポイント高い。2年後は2.8%で、長期的な予測をやや上回る。もちろんこれらの予測は委員会の決定や計画を示すものではない。
保有資産の縮小も、金融引き締めの点で重要だ。縮小計画については良い進展があった。我々は、今後の会合で保有資産の縮小開始について発表できると考えている。金利とバランスシートに関する決定を行う際には、市場と経済、幅広く状況に注意を払う。

ウクライナ侵攻、供給網の混乱もたらす

ウクライナ侵攻が米経済に与える影響は極めて不透明だ。原油や商品価格の上昇が世界に及ぼす直接的な影響だけでなく、侵攻や関連事象は海外での経済活動を抑制し、供給網の混乱をもたらし、貿易や他の経路を通じて米経済に波及する可能性がある。
金融市場の変動の大きさは、特にそれが続いた場合、信用の引き締めに作用し、実体経済に影響を与える可能性がある。このような環境下で適切な金融政策をとるには、経済がしばしば予期せぬ形で進展することを認識しなければならない。我々は入ってくるデータと変化する見通しに機敏に対応する必要がある。すでに極めて困難で不確実な状況にあるいま、さらに不確実なものを増やさないよう努める。
我々は、物価上昇率と期待物価上昇率への上昇圧力に留意する。米経済は非常に堅調で、金融引き締めに対応できる状況にある。我々は最大雇用と物価安定目標の達成のため、できる限りのことをする。 

インフレ、今年半ばまで高止まり

――参加者によるGDPの見通しを下方修正したが、利上げの影響はどの程度あるのか。いつ物価抑制に効果を発揮するか。
「金融政策の影響は時間をかけて現れる。利上げがGDPの下方修正に大きく影響したわけではない。修正の大半はウクライナ侵攻から波及する原油高、商品高がもたらすものだ。それでも2.8%の経済成長率は非常に高水準だ。利上げペースの判断材料にはならない。毎回のFOMCがライブの会合であり、状況を見極める。より早期の引き締めが適切かは述べられないが、今年その可能性があることは確かだ」
「ウクライナ侵攻が起こる前は、インフレは1~3月にはピークを迎え、今年後半には下がり始めるとみていた。いまは原油価格など短期的な上昇圧力が高まっている。多くの国や企業、人がロシア製品を欲しないなどの理由から供給網の問題が発生している。従って、供給網の問題解決も先送りされる可能性がある。今年の半ばまでは物価上昇率は高止まりし、23年には急激に下がるだろう」
「金融市場においては、昨年から我々は利上げについて言及してきたので、かなりの回数の利上げの可能性を織り込み済みだ。その意味で利上げの効果は現れ始めている」
――過度なインフレや、利上げに伴う景気後退のリスクをどう見るか。議長の考える利上げの見通しは。
「今後1年以内に景気後退に陥る可能性は高くはないとみている。総需要は今のところ強く、労働市場は極めて堅調で、雇用も高水準で増えている。家計や企業のバランスシートも健全だ。金融緩和を弱めても、経済は堅調さを保つだろう」
「個人の見通しを示すことはしない。今年はあと7回の会合があるということは指摘しておきたい。保有資産の縮小は、追加の利上げに相当する可能性がある。利上げのペースについてはまだどうなるかわからない。SEPをみると、かなりの数の参加者が今年7回以上の利上げを見込んでいる。データを見て判断する」

量的引き締め、早ければ次回5月会合で決定

――保有資産の縮小に関しては具体的にどのような議論がなされたのか。
「今回の会合で、保有資産縮小の計画の設定についての合意に向けて、大きく前進した。計画を最終的に決定し、実行に移すことができる状態になっており、早ければ次の5月の会合で、縮小開始に移れるところまできている。まだ決めていないが、議論はとてもうまく進んだ。最終的に詰めているところなので、詳細にはあまり触れたくない」
「(開始の)タイミングを決める際には、幅広く金融と経済の状況を考慮する。我々は常にマクロ経済と金融の安定を支えるために手段を使いたい。すでに不確実性の高い状況にさらなる不確実性をもたらすことは避けたい」
「(縮小の)枠組みは前回を知っている人にとって、非常になじみのあるものになるだろう。ただ前回より速く、また(金融引き締め)サイクルのかなり早い段階で行うことになる。3週間後に公表の議事録で、より詳細な議論が提示され、我々が見ている設定を知ることができるだろう」
――インフレについて、サービスとモノの状況をそれぞれどう見ているか。
「サービスの物価上昇率は元に戻ると予想していた。一部では戻っているが、インフレがより広範囲に広がっているサービスもあり、懸念している。モノの方は低下がみられるが、直近のデータでは自動車に限られている。物価安定に向けて必要な手段をとっていく」

賃金上昇スパイラルは定着しない

――失業率を上げずにインフレを抑えることは可能なのか。
「いまの労働市場では、失業者1人に対して1.7人以上の求人がある。不健全なまでに非常に逼迫した労働市場となっている。需要と供給を調整し、求人数を減らして1対1に近い状態にすればいい。賃金上昇圧力は低下し、人手不足もかなり解消されるだろう。需要と供給の整合性を高めれば、物価上昇率は下がるはずだ」
――賃金上昇が持続し、とまらなくなる可能性はあるか。
「賃金上昇のスパイラルが発生し、定着するとは思わない。労働市場での需給の不整合が、長期的な物価目標の2%を超えて賃金が上がることにつながっている。賃金上昇は良いことだが、これほどの上昇は長期的に持続可能ではない。我々は物価上昇率を2%に戻すために手段を講じる必要があり、労働市場は耐えられるとみている」
――高齢者の労働参加の増加についての期待は。
「前回の景気拡大期にみられたことは、労働力人口が予想を上回ったということだ。労働市場が逼迫していたので、人々がより長く労働力にとどまることができた。退職後に労働市場に戻ってくる人は多くはないが、そういうことも起こっていた。労働力人口が増えることは非常に喜ばしいことで、我々の政策はそれを妨げるものではない」
「賃金は非常に高い割合で、長期にわたって上昇している。人々は仕事を辞め、同じ産業や異なる産業でより賃金の高い仕事に移ることができている。人々にとって非常に魅力的な労働市場だ。コロナ収束後はさらに魅力的になり、労働供給が増えることを期待している。国にとっても良いことで、インフレを引き起こす賃金上昇圧力も緩和されるだろう」
――失業率を下げるために経済を過熱させるという金融政策の枠組みは終わったようにみえる。インフレが許容できる水準に下がるまで利上げを続けるのか?
「我々が述べていたのは、失業率が低いが物価上昇が起きていない時に、物価を上げるために利上げをすることはないということだった。高インフレが起きているときに利上げを待つという意味ではない。期待インフレを2%に固定することが枠組みの全てだ。突然、予想外のインフレが発生したことに対応しているのであって、金融政策の枠組みが引き起こしたものではない」
「労働市場には勢いがあり、多くの雇用が創出され、基本的に経済は強い。ウクライナ侵攻の脅威はあるが、基本的に強い成長が予測されている。インフレは目標をはるかに超えており、供給サイドの改善もまだ起きていない。物価安定のために手段を講じるところだ」

高インフレ定着の代償は高すぎる

――インフレの現状に金融引き締めが遅れる「ビハインド・ザ・カーブ」になっているのではないか。
「我々は、リアルタイムの決定を下すことに関して、後知恵で解釈するぜいたくは持ち合わせていない。供給制約や、それがもたらすインフレがどうなるかわかっていれば、もっと早く動くことが適切だったろう。 我々は物価安定を回復する必要性を強く認識しており、そのため手段を講じる用意がある。高インフレを定着させるつもりはないし、その代償は高すぎる」
――バイデン米政権はFRBの金融監督担当副議長へのラスキン元理事の指名を撤回すると発表した。金融監督はどう機能しているのか。
「我々は法律のもとで監督と規制を行うという義務を遂行している。物事は会議で投票を経て決定される。金融監督担当の副議長はまだいないが、今の状況でやりくりしている。ストレステストも実施しているし、M&Aの認可申請などもみている。多くの案件が委員会の承認プロセスに載せられている」

ロシア中銀への制裁、「コメント控える」

――ロシアへの経済制裁で、特にロシア中銀の資産凍結について、長期的に基軸通貨であるドルへの影響をどう見ているか。
「世界中の中央銀行はこの制裁に対して非常に賛成している。ただ制裁は選挙で選ばれた政府の仕事だ。どこの国でも同じだ。我々は技術的な専門知識を提供するために存在するが、制裁は我々の決定ではない。従ってコメントは控える」
(米州総局=大島有美子、伴百江、長沼亜紀、野村優子)