金融課税強化はあってもいい(澤上篤人)
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ソース: https://www.nikkei.com/article/DGXZQOMC18E5H0Y1A111C2000000/
保存日: 2021/11/26 8:14
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キャピタルゲイン課税の税率を現行の20%から引き上げる政策案が浮上してきている。岸田新内閣の政権公約には盛り込まれなくて残念だったが、税率の引き上げには賛成である。
課税強化の議論に市場関係者は猛反発
もっとも、株式市場ならびに市場関係者からすると、株価にはマイナス材料ということで一致している。キャピタルゲイン課税の強化ともなれば、投資家の買い意欲をそぐだけではない。税率の引き上げ前に利益確定をしておこうと、売りを誘引しかねない。それは、そのまま現行の株高傾向に水を差すことになりかねない。とりわけ昨今は、機関投資家を中心に短期のディーリング運用が主流となっている。彼らは小幅な売却益を積み重ねることで運用成績を出そうと躍起になっている。そんな彼らからすると、キャピタルゲイン課税の強化など冗談ではないと猛反対である。
そうは言うものの、現行のカネ余りバブル相場をどれだけ深追いしたところで、どんなバブルもいつかははじけ飛ぶ。バブル崩壊ともなれば、マーケットはすさまじい売り逃げ地獄と化し、経済の現場のみならず社会も収拾のつかない混乱に陥るのは避けられない。となると、金融課税の強化でも何でもいいが、早めにバブルを潰しておいた方が賢明と言える。先々を考えると、このとんでもないカネ余りバブル相場など、一刻も早く吹き飛んでくれた方がいいのだ。
そもそもからして、このバブルは異常である。どういうことか。各国の中央銀行が異次元の資金供給により、あたかも胴元のようになってバブル相場をあおっている。通常のバブルを超えて、国家が引き起こしている株高など、どう考えても健全ではない。市場が持つ需給の調整ならびに価格発見という重要な機能を、中央銀行が力任せに押し潰しているのだ。
繰り返し言うが、いつのバブルも、いつかははじけ飛ぶ。その時、市場機能をないがしろにしてきた代償は、市場のしっぺ返しとして嫌というほど味わされよう。バブルに踊ってきた投資家たちも市場関係者も、金融課税強化などお呼びでないような鉄槌を、ガツーンと食らうことになる。国も中央銀行も経済合理性の前には、どんな人為も及ばないことを学ばさせられよう。
長期投資家には痛くもない
一方、われわれ長期投資家からすると、キャピタルゲイン課税の強化はさしたる重荷とならない。なにしろ「安い間に買っておき、高くなるのを待って利益確定の売りを出す」長期運用では、そもそも売買の回転が超ゆっくりしている。時間はかかるが、大きく膨れ上がった投下資産の利益確定をするのだ。そこで支払うキャピタルゲイン課税の税率が20%から30%になったところで、そう大した痛手ではない。なんといっても、たっぷりと得た利益の70%も手元に残るのだから。
それどころか、長期投資家は金融所得に課される税金も、売買手数料と同様に支払って当然とさえ考える。売買手数料もキャピタルゲイン税も、全て投資に関わる必要経費として支払ってしまうのだ。そうすれば、手元に残った資金でもって、次の投資に思い切り集中することができる。
これが節税だとか言い出すと、話は違ってくる。いかに税負担を減らすかで、様々な手法を繰り出しては税支払いを抑え込もうとする。ちなみに、世の節税対策の大半が、現行の法体系の下で資産を固定化して、税支払いを最小限にしようとするもの。資産を固定化する節税手法はどんなに頑張ったところで、法制度の改正があるとひとたまりもない。むしろ、国税当局が節税のあぶり出しを狙って税がらみの法律の改正を仕掛けることもある。
所得の再分配にも貢献する
金融を緩和して資金を大量に供給しさえすれば経済は成長すると唱えるマネタリズム政策は、この30年ほどさしたる効果を見せていない。唯一の成果は一部の人々の金融所得が大幅に増加したことぐらい。その横で、大多数の国民の低所得化が不気味なほど進んでいる。
この状況を打開するには、異常に金融膨れした世界経済を、実体経済をベースとしたものに戻すことだ。それには、金利の正常化が第一優先となる。そもそも金利をゼロ同然にして、まともな経済活動など望むべくもない。バブルに踊る企業や金融機関そして投資家たちを潤すだけだ。そういった金融所得の増加に対しても、キャピタルゲイン課税の強化は急がれる。
澤上篤人(さわかみ・あつと)
1973年ジュネーブ大学付属国際問題研究所国際経済学修士課程履修。ピクテ・ジャパン代表取締役を務めた後、96年にあえてサラリーマン世帯を顧客対象とする、さわかみ投資顧問(現さわかみ投信)を設立。
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