さよならベゾスCEO 最後の総会に映るAmazonの光と影(写真=AP)
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ソース: https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN035KP0T00C21A6000000/
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2021/6/5 2:00 [有料会員限定]

ベゾスCEO退任後の新体制の行方が注目されている=AP

【シリコンバレー=奥平和行】米アマゾン・ドット・コムの創業者、ジェフ・ベゾス氏が最高経営責任者(CEO)として最後の定時株主総会に臨んだ。27年前、米シアトル郊外の民家のガレージで誕生したスタートアップ企業は年間売上高40兆円、社員130万人の巨大企業へと成長。総会でも「帝国」の光と影が浮かび上がった。

「平均以上のリターンを得ようと思ったら、リスクを取るしかない。しかもその多くはものにならない。それでも多くのリスクを取ってきたし、こうした姿勢は今後も変わらないだろう」。アマゾンが5月26日に開いた株主総会。ベゾス氏は株主からの質問に答える形で、成功の秘訣について語った。

ウォール街出身者らしいセリフに同社の成功の要因は凝縮されている。例えば主力の電子商取引(EC)で売上高の約6割を占める「サードパーティー」と呼ぶ外部企業による販売。あるOBによると「インターネット競売で米イーベイに破れた経験を生かした。自社の販売への逆風になるという反対もあったが押し切って始め、成功を収めた」という。

2005年に始めた会員制サービス「アマゾンプライム」、06年に開始したクラウドコンピューティングサービス「アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)」などの背後にも同じようなドラマがあった。こうした取り組みが奏功し、さらに新型コロナウイルス流行の追い風も受ける。20年12月期の売上高は前の期比38%増、純利益は84%増と急増した。

だが、めざましい成長により影も濃くなった。26日の総会で株主提案は11件にのぼっている。同じ時期に総会を開いたIT(情報技術)大手の米アルファベット(米グーグル持ち株会社)は8件、米フェイスブックは6件。相対的な多さが株主、そして社会に広がる同社への不満を映し出す。

非政府組織(NGO)のオックスファム・アメリカは物流拠点で働く時給制の社員を取締役候補として選任することを求める議案を提出し、勤務経験がある女性が「労働環境に問題があるにもかかわらず、管理者は社員の話に耳を傾けない」と訴えた。反競争的行為のリスクを監視し、取締役会に報告することを義務付ける議案も提出された。

米アマゾン・ドット・コムは急成長する一方、批判を浴びる場面も増えている。

株主提案はいずれも否決されたが、社内外からの監視は意識せざるをえない。幹部は「地球上で最高の雇用主になる」と繰り返し、ベゾス氏は株主からの質問を受けて「厳しい競争に直面しており、小売り全体に占める当社のシェアはわずか。勝者総取りではない」などと説明して理解を求めた。

このやり取りを聞いて思い出したのは、次期CEOに内定しているアンディ・ジャシー氏の言葉だった。1年半ほど前に独占・寡占問題について尋ねると、「当社の小売事業の世界シェアは1%、クラウドもIT投資の3%にすぎない」と即答した。26日のベゾス氏の発言は改めてジャシー氏が正統な継承者であることを印象づけた。

だが、環境は厳しさを増している。総会前日には米首都ワシントンの司法長官が反トラスト法(独占禁止法)違反でアマゾンを提訴した。かつての米マイクロソフトと同じく創業者のCEO退任を機に停滞期に入るのか、米アップルやグーグルのようにさらなる成長を実現するか。いずれにしてもステークホルダーが新体制の行方に目を凝らしているのは間違いない。