「SNS政治」転機 Facebook、トランプ氏2年利用禁止
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ソース: https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN051EJ0V00C21A6000000/
保存日:2021/6/5 15:00 [有料会員限定]
トランプ前米大統領と米フェイスブックのザッカーバーグCEOの関係は良好だった(19年のトランプ氏のフェイスブックへの投稿)
米フェイスブックがトランプ前米大統領らの政治手法に「ノー」を突き付けた。2023年までトランプ氏による同社の交流サイト(SNS)などへの新規投稿を禁じたほか、これまでの方針を転換して政治家の投稿への介入を強める考えだ。SNSに賛否両論を招く内容を投稿して支持者をつなぎ留めてきた米国内外の「トランプ型」の政治の転機になる。
「次に私がホワイトハウスに入るときは(マーク・)ザッカーバーグ夫妻からの要請があっても夕食に招かない」。フェイスブックが新たな方針を発表した4日、トランプ氏は声明で同社の対応を批判し、19年にザッカーバーグ最高経営責任者(CEO)夫妻と夕食をともにしたことも引き合いに出して怒りをぶちまけた。
背景には両者のかつての「蜜月」がある。ザッカーバーグ氏は「真実の裁定者にはならない」などと繰り返し発言し、削除など利用者の投稿への介入に消極的な姿勢をとってきた。トランプ氏はこうした姿勢を評価し、米ツイッターとともに有権者に直接語りかける手段として積極的に活用してきた経緯がある。
だが、1月に同氏の支持者が米連邦議会議事堂の占拠事件を起こすと流れが大きく変わった。フェイスブックは暴徒を称賛したとしてトランプ氏のアカウントを無期限に凍結。有識者で構成する監督委員会から「無期限とするのは不適切」との指摘を受けたため、公人を対象とした罰則規定を新設して2年間の投稿禁止処分とした。
政治家の投稿への対応も変える。同社は利用規約に反する内容でもニュース価値があると判断すれば掲載を続け、政治家の投稿は第三者が真偽を判定するファクトチェックの対象外としてきた。だが、ニック・クレッグ副社長は4日に「政治家の発言であってもほかの利用者の投稿と同じ基準で判断する」と説明した。
一連の対応は24年の米大統領選への再出馬をにらみ復権をうかがうトランプ氏への打撃となる。既にツイッターが同氏の「永久追放」を決めているほか、フェイスブックのSNSや同社が運営する若年層の利用が多い画像共有アプリ「インスタグラム」も少なくとも23年までは使える見込みがなくなったためだ。
同氏は5月にツイッター風の情報サイトを開設して有権者に直接語りかける手段を回復しようとしたものの、利用者が増えずに約1カ月で閉鎖している。5日に南部ノースカロライナ州の共和党集会で非公開の演説に臨むなど大統領選の激戦州を中心に対話の機会を探るが、SNSという「武器」を欠いた状態での戦いを余儀なくされている。
方針転換によりフェイスブックも重荷を背負う格好になる。
右派を中心に「言論封殺」との批判を強めるのは必至で、「合衆国憲法が保障している表現の自由を侵害している」との指摘を受ける可能性も高い。南部フロリダ州では5月、SNSの運営企業が政治家を排除することを禁止する法律を共和党の知事が成立させた。同様の動きが増えると投稿管理の選択肢が狭まり、サービス運営が難しくなる可能性がある。
(シリコンバレー=奥平和行、ワシントン=永沢毅)