Appleは支配者か 判事「値下げ、競争の結果ではない」
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ソース: https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN28FBL0Y1A520C2000000/
保存日: 2021/05/31 8:19
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エピックは30%の手数料などを不服としてアップルを訴えた=ロイター
米アップルによるアプリ配信の手法が反競争的だとして米ゲーム大手のエピックゲームズが訴えた裁判で、両社トップも出席した約3週間の口頭弁論が終わった。アップルの市場支配力を巡り両社は鋭く対立した。年内にも出る判決は、10兆円規模に達するアプリ市場の行方を左右する。
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「配信を手がけるアップルが、アプリ開発者よりも利益をあげている」――。3億5000万人以上の登録ユーザーを抱えるゲーム「フォートナイト」の開発元であるエピックのティム・スウィーニー最高経営責任者(CEO)は頻繁に裁判所に足を運び、アップルのアプリ配信サービス「アップストア」への批判を繰り返した。
アップルのティム・クックCEOが出廷したのは最終盤の21日のみ。約4時間の証言でクック氏は同社の「iPhone」がスマートフォン市場で「激しい競争に直面している」などと発言。自社の市場支配力は限られているとの見解を示した。
エピック側はアップルのスマホ・タブレット向けアプリ配信においてアップストアが事実上唯一のサービスである点を問題視。アップルはアプリ開発者には米グーグルの基本ソフト「アンドロイド」を搭載したスマホや家庭用ゲーム機向けにアプリを配信する選択肢があることを強調し、独占批判をかわそうとした。
米カリフォルニア州の連邦地裁で今回の裁判を担当するロジャース判事は両者の間を取り、アップルの市場支配力をモバイルアプリ市場でみるとの立場を示した。この基準ならアップルのシェアは約65%となる。米メディアの間では判事のこの判断はアップルにとって逆風との見方が出ている。
アップルはアップストアを始めた2008年以降、原則30%の配信手数料を下げていない。ロジャース判事は「(アップルが)行動のあり方を変えなければならないという圧力や競争を感じているようには思えない」と発言し、アップル側の主張に疑問を呈した。
アップルは1月、売上高が年100万㌦(約1億円)に満たないアプリについては手数料率を15%に下げた。その背景についても、判事は今回の訴訟などから受けた「プレッシャーのせいだ」と指摘。「訴訟は頭の片隅にあった」としたクック氏に対し、判事は「競争の結果ではなかったということだ」と突き放した。
アップストアの収益動向を巡っても、アップルとエピックはすれ違った。アップル幹部は4月に米議会上院が開いた公聴会で、アップストア単独の損益計算書は「ない」と証言としていた。ところがエピック側は証拠収集手続きで入手したアップルの社内資料に「5年分のアップストアの営業利益率の推移を示したグラフがあった」と暴露。議会証言との矛盾を突いた。
エピック側は社内資料がクック氏とルカ・マエストリ最高財務責任者(CFO)向けに作成されたものだと主張した。だがクック氏は「記憶にない」と述べ、アップストアの「個別の収支は計算していない」と、従来通りの主張に終始した。
同氏が証言中、いったん「覚えていない」と答えたあと、自社の弁護士の誘導に従って発言を翻すこともあり、ロジャース判事は「奇妙だ」と苦言を呈した。
アップストアをめぐっては、米IT(情報技術)大手の独占・寡占に目を光らせる米司法省も調査を続けている。欧州では音楽配信最大手のスポティファイ・テクノロジー(スウェーデン)の告発に基づき、欧州委員会がEU競争法(独占禁止法)違反の疑いがあるとアップルに警告している。
米議員の間では、独占・寡占の弊害による消費者の不利益をより幅広く捉えられるよう、反トラスト法(独占禁止法)の改正を目指す動きもある。
判決の行方は予断を許さないが、アップルに対する風向きが変わる兆しもある。口頭弁論の終了後、従来はアップル有利と見込んでいた米投資調査会社の中には、判決がエピックに有利なものになると、予想を見直す動きが出始めている。
もしエピックが勝てば、多くの開発者がアップルに手数料率の引き下げや独自の決済基盤の導入を要求するとみられる。上級審に進む可能性が高く最終決着はなお遠いが、今回の裁判が盤石と思われたアップルの経済圏を揺さぶっているのは間違いない。(シリコンバレー=白石武志)