米株、最高値接近 「ビットコイン離れ」も(NY特急便)(写真=AP)
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ソース: https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN24CZP0U1A520C2000000/
保存日:2021/5/25 7:28 [有料会員限定]

S&P500は最高値に接近している(24日、ニューヨーク証券取引所)=AP

米国株が再び最高値に接近している。24日、機関投資家が重視するS&P500種株価指数は反発し、史上最高値まで残り0.6%に迫る場面があった。暗号資産(仮想通貨)市場で先週、ビットコイン価格が急落し、株式市場にも動揺が走ったが、投資家は早くもショックを乗り越えようとしている。

「ビットコイン急落に伴う『強制的な株売り』を心配しなくてよさそうだ」。米証券ミラー・タバックのストラテジスト、マシュー・マリー氏は24日早朝、顧客向けのメモでこう述べた。マリー氏の読み通り、ダウ工業株30種平均など主要3指数はこの日、じわじわ上げ幅を広げる展開となった。特にS&P500指数は7日につけた史上最高値(4232.60)の更新が視野に入る。

暗号資産市場は先週、ショックに見舞われた。中国政府による規制強化方針が明らかになり、ビットコイン価格は4月の最高値の半値まで暴落した。一方、S&P500指数の下落率は週間で0.4%にとどまった。ビットコイン取引で損失を抱えた投資家が穴埋めで保有株式の処分を迫られ、マーケット全体に波及する――。こんなシナリオが警戒されたが、今のところ相場は崩れていない。

ビットコイン相場の下落を株高材料と捉える向きもある。米証券サスケハナ・フィナンシャル・グループのクリストファー・ジェイコブソン氏は「余計な『フロス(小さい泡)』が市場から取り除かれた」と評価したうえで、「株価がもう一段上昇する舞台を整えた」とまで言い切る。

フロスとは相場の過熱を示す言葉だ。バブルのようにはじけて市場全体に混乱をもたらす恐れは低いものの、のちにバブルに発展する可能性がある。米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長が4月、米連邦公開市場委員会(FOMC)後の記者会見で1月のゲームストップ株乱高下を「フロス」と呼び、話題になった。

フロスの一因は個人の旺盛な投資意欲だった。株式オプションの小口取引や特別買収目的会社「SPAC」、テクノロジー銘柄に集中投資する上場投資信託(ETF)「ARKイノベーション(ARKK)」、ビットコイン……。個人は政府の給付金効果で投資余力を高めており、年初から局所的なフロスを生み出していた。

レバレッジ(負債)の活用でビットコインを買っていた個人は、価格急落で痛手を被った。投資余力は低下し、SPACやARKKの売りにつながった可能性がある。サスケハナによると米株コールオプション(買う権利)の買いに占める小口取引の割合は足元で14.8%まで低下し、2020年4月以来の低水準となった。

個人マネー発のフロスが取り除かれれば、市場の健全性は増す。割高感の修正にもつながるので、機関投資家の買いが見込める――。これがサスケハナのジェイコブソン氏ら強気派の描く株高シナリオだ。

FRBの資産購入縮小(テーパリング)の早期化観測や企業業績の成長鈍化など、中長期的な懸念材料は多く、強気派のシナリオ通りになるかどうかは分からない。ただ「ビットコイン離れ」を達成しつつある米株の背後には、買いの好機を待ちわびる投資家の姿が透けて見える。

(ニューヨーク=宮本岳則)