世界のPC・スマホ生産担う台湾、部品不足で作れず
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ソース: https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM12CTH0S1A510C2000000/
保存日:2021/5/18 13:00 [有料会員限定]

半導体や液晶パネル不足が大手メーカーの生産に影響を与えている=AP

【台北=中村裕】パソコンやスマートフォンなど世界の多くのデジタル製品の生産を担う台湾企業の業績にブレーキがかかり始めた。自動車で顕著になった半導体などの部品不足がIT(情報技術)業界でも色濃くなり、生産が停滞し、主要企業の8割で4月の売上高が3月を下回った。旺盛な需要に応えられず、好業績にストップがかかった格好だ。生産の滞りは長引く見通しで、今後の世界景気にも影響を与えかねない。

「部品不足が非常に深刻だ。需給バランスが崩れ、来年まで不均衡は続く。回復には相当な時間がかかる」。台湾最大手のパソコン受託生産会社である仁宝電脳工業(コンパル)の経営トップ、許勝雄・董事長は4月後半、経済界の会合で危機感をあらわにした。

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新型コロナウイルスの感染拡大を背景に、在宅で使うノート型の需要が旺盛で、コンパルの2021年1~3月期の売上高は前年同期比48%増加した。主力顧客の米デル・テクノロジーズ、中国のレノボ・グループ向けを中心に出荷が伸びた。

だが4月の売上高は一転、前年同月比5%減に落ち込んだ。「急速に膨らむ需要に対応し、昨春からどうにか世界へ製品の供給を続けてきた。たださすがに部品が足りなくなり、パソコンやスマホの生産が滞り始めた」。業界関係者は指摘する。

1~3月期までは半導体などの部品不足が指摘される中でも、台湾各社の業績は右肩上がりが続いた。テレワークやオンライン授業が世界で進み、1~3月期の世界のパソコン出荷台数は前年同期比55%増(米調査会社IDC調べ)だった。その多くを受託生産するのがコンパルなど台湾勢で、業績は絶好調だった。

ところが4月、コンパルと同様に売上高を落とす台湾の関連企業が急増し、デジタル景気に変調の兆しが出てきた。

米アップルなど世界のIT大手を主力顧客とする台湾の上場有力19社を対象に、日本経済新聞が各社の売上高を分析したところ、4月の売上高が3月の売上高を下回った企業は15社にのぼった。

19社の売上高の合計額(約4兆5千億円)の伸び率こそ、4月は前年同月比18%増と2ケタを維持したが、20~50%増で推移した直近5カ月では最低の水準だ。19社のうち、減収が6社に及んだのも象徴的だ。iPhone生産で世界2位の和碩聯合科技(ペガトロン)は10%の減収、スマホ向けの光学レンズで世界最大手の大立光電(ラーガン・プレシジョン)も27%の減収となった。

台湾企業の今後の業績の失速具合によっては、世界のデジタル景気に大きな影響を与えかねない。台湾企業の業績の動向は、世界の景気を占う上で重要な先行指標となる。世界のデジタル製品の生産の大半を台湾企業に依存しているためだ。

例えば、アップルのiPhoneの生産は全量を台湾企業が担う。サーバーも世界の9割は鴻海(ホンハイ)精密工業など台湾勢が作り、パソコンも8割強、半導体も台湾が6割強に達する。部品から完成品まで手掛ける台湾企業の生産が滞れば、世界に製品を出荷できず、デジタル景気に影響を与える構図だ。

世界の多くの子供たちはノートPCを使ったオンライン学習を余儀なくされている(1月、ドイツ・ベルリン市)=ロイター

既にスマホ業界で深刻になってきた。半導体不足で中国勢がスマホを作れない状態に陥っている。政府系シンクタンクの中国情報通信研究院によると、世界最大の中国市場における4月のスマホ出荷台数は34%減少した。1~3月期の前年同期比約2倍から一転し、警戒感が強まる。鴻海の劉揚偉董事長も14日の決算会見で「部品不足は4~6月期により深刻になる」と警鐘を鳴らした。

さらに台湾ではこれまで抑え込みに成功していた新型コロナの感染が足元で急増し、今後は生産への影響も懸念される。コロナ感染が深刻なインドでは既に鴻海など台湾勢の生産に影響が出ている。世界中で旺盛なデジタル需要がある中での生産の停滞はさらなる需給逼迫を呼び、価格上昇の負のスパイラルを招く。

半導体メモリーのDRAMのスポット(随時契約)価格は既に一部製品で年初から2倍を超える異常な動きをみせ、液晶パネルも価格上昇が続く。

オンライン学習用にChromebookのノートPCを無料で受け取る生徒たち(20年10月、カリフォルニア州)=AP

ノートパソコン向け液晶パネルで台湾大手の友達光電(AUO)の彭双浪・董事長は「過去最長でパネル価格が上昇を続けている」と指摘。4月末には「世界各国がオンライン教育用パソコンの大量注文を続けている。4~6月期のパネル価格も相当上がる」と語った。

パソコン大手デルのマイケル・デル最高経営責任者(CEO)も今月11日付のドイツ経済紙のインタビューで「半導体不足は今後数年間続く。世界中に半導体工場を造っても時間はかかる」と述べた。デルは年間700億ドル(約7兆7千億円)の半導体を台湾企業などに発注する大口顧客だが、それでも金額を上乗せし、半導体の確保に奔走する状況を明かした。

深刻な部品不足はメーカーの不安心理を呼ぶ。さらなる部品価格の上昇を招き、最終的に完成品の価格上昇につながる。米労働省が発表した4月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比の上昇率が4.2%と08年9月以来の大幅な伸びを記録した。経済再開に伴う需要増と供給逼迫が背景だ。上昇率は予想の3.6%を上回り、市場ではインフレ懸念が一段と強まっている。