インフレだけじゃない、テック株の憂鬱(NY特急便)(写真=ロイター)
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ソース: https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN1201S0S1A510C2000000/
保存日:2021/5/12 7:12 [有料会員限定]
11日のダウ工業株30種平均は大幅続落し、2カ月半ぶりの下落幅となった(ニューヨーク証券取引所)=ロイター
11日のダウ工業株30種平均は大幅続落し、終値は前日比473ドル安の3万4269ドルと、下落幅はおよそ2カ月半ぶり大きさとなった。前日に引き続き、急速な経済回復に伴うインフレ懸念の高まりが金利上昇観測へと波及し、高成長が期待されるテクノロジー株が売られている。米国株をけん引してきたテック株が、転換点を迎える可能性も指摘され始めている。
午後にかけて下げ幅は縮小したものの、アップルが一時3%安、グーグルが一時2.5%安まで売られるなど、前日に続いてテック株の下落が目立った。テスラは「上海工場を拡張するための土地購入計画を中止した」とロイター通信が報じたこともあり、一時5%安まで売られた。テック以外の幅広い業種にも売りが広がり、市場心理を測る指標となる変動性指数(VIX)は一時、前日終値を2割上回る23.73まで上昇した。
インフレ懸念を発端とした売りに、テック株は転換点を迎えるとの見方も出ている。ファンドストラット・グローバル・アドバイザーズのトム・リー氏は11日、投資家向けのメモで「テック株に対する風向きが、転換点を迎えた可能性がある」と指摘した。インフレだけでなく、バイデン政権による反トラスト法(独占禁止法)強化の懸念もあり、「(テック株保有により)勝つよりも、失うリスクの方が多い点を注意すべきだ」と呼びかけた。
同社は前週、テクノロジー株の投資判断を「オーバーウエート(強気)」から「中立」に、FANG(フェイスブック、アマゾン・ドット・コム、ネットフリックス、グーグル)については「中立」から「アンダーウエート(弱気)」に引き下げている。長期的には強気にみているものの、足元では買われすぎだとしていた。
もっとも、テクノロジー企業の業績は好調だ。調査会社リフィニティブがS&P500種株価指数の構成銘柄を対象に2021年第1四半期決算を集計したところ、4日時点でテクノロジー企業の95%で1株利益が市場予想を上回った。市場予想では21年通期に前期比24%増と、大幅増益を見込んでいる。
米証券ミラー・タバックのマシュー・マリー氏は、「非常に好調な企業業績に反して売りが膨らむのは、全ての良いニュースが株価に織り込み済みと市場が認識し始めていることになる」と下押し圧力を警戒する。テック株が転換点を迎えるかどうか見極めるのは時期尚早であるとしつつ、「この1年間でテック株に投資するリスクは確実に高まっており、今回の下落が一段と大きな下落を招く恐れはある」とみる。
インフレ懸念に加えて、テック株を下支えしてきた、上昇に勢いのある銘柄中心に組み入れる「モメンタム投資」から撤退する人が増えることも懸念という。その代表格である米アーク・インベストメント・マネジメントが運用する上場投資信託(ETF)「ARKイノベーション」からは、すでに資金流出が目立ち始めた。
マリー氏は、「(インフレ懸念による)金利上昇はテック株に黄信号をともした。ナスダック総合指数が3月の安値(1万2609)を下回れば、赤信号がともることになるだろう」と指摘する。ナスダック総合指数は11日、1万3389で取引を終えた。あと6%の下落で赤信号がともりかねないテック株には、注意が必要だ。
(ニューヨーク=野村優子)