最高益テスラ、中国傾斜に政治リスク(写真=ロイター)
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ソース: https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN2706Q0X20C21A4000000/
保存日:2021/4/27 10:46 (2021/4/27 10:59 更新)

上海モーターショーではテスラ車のブレーキ品質と対応に不満を持つ消費者が抗議行動を繰り広げた=ロイター

【シリコンバレー=白石武志、上海=松田直樹】米電気自動車(EV)メーカーのテスラが中国依存度を高めている。2019年末に稼働させた上海工場の量産が軌道に乗り、21年1~3月の中国におけるEV販売台数は米国にほぼ並んだ。一方で品質問題への対応をめぐって中国メディアの批判を浴びるなど、米中対立に巻き込まれるリスクも強まっている。

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テスラが26日発表した21年1~3月期決算は、売上高が前年同期比1.7倍の103億8900万ドル(約1兆1200億円)だった。最終利益は4億3800万ドル(前年同期は1600万ドル)と7四半期連続で最終黒字を維持し、業績が確認できる14年以降、四半期ベースで最高を更新した

好業績を支えたのは新型コロナウイルスによる景気低迷からいち早く抜け出した中国事業だ。同社は地域別の販売台数を明らかにしていないが、調査会社のマークラインズによると、期中の中国におけるテスラのEV販売台数は前年同期比3.7倍の約6万9000台となり、米国販売台数(約6万9000台)とほぼ並んだ。

テスラは19年末、米国外で同社初となる完成車工場を上海市で稼働させた。20年1月に主力小型車「モデル3」の納車を始め、1年後には新型SUV(多目的スポーツ車)「モデルY」を追加した。足元の年間生産能力は45万台に達し、米カリフォルニア州のフリーモント工場(年間生産能力は60万台)に匹敵する規模になっている。

上海工場は市場開放を印象づけたい中国政府が、外資による単独出資を初めて認めた自動車工場だ。イーロン・マスク最高経営責任者(CEO)は、19年1月の着工式にあわせて李克強(リー・クォーチャン)首相らと会談。政府との蜜月関係をアピールし、現地生産にあたって自社に有利な条件を引き出してきたとみられている。

風向きが変わったのは、21年3月に米アラスカ州アンカレジで開かれた米中外交トップによる対面協議の前後だ。人権や台湾問題をめぐる中国の対応に「深刻な懸念」があると表明したバイデン米政権側に対し、中国側は「内政干渉だ」と猛反発。双方が1時間以上も激しく応酬する異例の展開となった。

ほぼ同じ時期に、中国ではテスラ車の走行データの一部が米国に持ち出されているとの疑いが浮上。人民解放軍が軍人にテスラ車の利用を事実上禁止したことも明らかになった。米中対立が激しさを増す中、中国当局が米側に圧力をかける手段としてネームバリューのあるテスラを標的にし始めたとの見方もある。

上海モーターショーの会場でテスラ車に見入る参加者ら=ロイター

4月19日に開幕した上海国際自動車ショーでは、2月に衝突事故を起こしたというテスラ車の女性オーナーが同社ブースの展示車の屋根に乗り、ブレーキ品質に問題があると抗議し騒然となった。同社の展示ブースは一時閉鎖され、中国国営メディアからも「テスラは事故について合理的な説明を消費者にすべきだ」との批判が相次いだ。

中国の規制当局も「法律に従い製品の品質に対する責任を果たすべきだ」との声明を公表。当初は「第三者機関による調査などの提案をすべて拒否された」と反論していたテスラだが、25日深夜の声明では「当局と連携して問題の解決に全力を尽くす」と表明。火消しに躍起になっている。

中国では消費者の不満をきっかけに外資系企業が不買運動に直面し、ダメージを負うケースが多い。最近ではスウェーデンのへネス・アンド・マウリッツ(H&M)のウイグル問題への対応が問題視され、中国の大手ネット通販サイトから同社が閉め出される事態となった。

17年には在韓米軍の地上配備型ミサイル迎撃システム(THAAD)をめぐって中国消費者の対韓感情が悪化。韓国・現代自動車はその後、中国で長期的なシェア後退を余儀なくされた。

サプライチェーンの大部分を中国に依存する米アップルは近年、米中対立を背景に東南アジアやインドなどへの生産拠点の分散を進める。テスラが製造・販売の両面で強める中国への傾斜は、マスクCEOにとって「もろ刃の剣」となる恐れがある。