温暖化リスク、暗号資産は「座礁資産」か(NY特急便)(写真=AP)
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ソース: https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN15EAO0V10C21A4000000/
保存日:#北米 #NY特急便
2021/4/16 6:32 [有料会員限定]
暗号資産(仮想通貨)交換所大手のコインベース・グローバルの株価は上場から一夜明けて下落した=AP
15日のダウ工業株30種平均は続伸。終値は前日比305ドル高の3万4035ドルと、初めて3万4000万ドル台で引けた。小売りや雇用で回復を示す経済指標が相次ぎ、米景気への楽観論が強まった。デルタ航空など決算発表の場で企業トップが景気回復への自信を示すコメントが相次いだことも買いを支えた。
幅広い株式に買いが広がる一方で、値を下げたのが前日に上場した暗号資産(仮想通貨)交換所大手のコインベース・グローバルだ。15日の終値は322.75ドルと、前日比で約2%下げた。暗号資産投資の「将来性」と「リスク」をはかる議論が深まるかなかで、前日の熱狂を維持できなかった。
規制強化や価格乱高下などと並んで暗号資産業界への投資リスクとして強く意識されているのが、地球温暖化への影響だ。
暗号資産に不可欠なマイニング(採掘)という膨大な計算作業では、大量の電力が消費される。暗号資産専門のオランダ人経済学者、アレックス・デブリース氏は最近、ビットコイン業界が消費する電力量は今年、ノルウェーの年間電力消費量に匹敵する可能性があるとの試算を発表した。その規模は、世界じゅうのデータセンターすべてを合わせた電力消費量と並ぶ。
こうした電力需要をまかなうために発生するカーボンフットプリント(温暖化ガス排出量)は、英ロンドン市と同水準だという。今後、対策のないまま暗号資産への需要が加速したら、地球への「悪影響」は計り知れない。
世界が温暖化対策にカジを切ると、温暖化ガス排出量の多い石油や石炭、天然ガスといった業界への需要は減る。そのため、こうした事業を「座礁資産(今後、資産価値の低下が確実な資産)」とみなす考え方は欧米の投資家の間で定着してきた。その流れで投資価値を判断すると、暗号資産も座礁資産ということになる。
環境・社会・企業統治を重視したESG投資の視点で暗号資産への投資を評価すると、課題となるのは「E(環境)」だけでない。マイニングが盛んな地域は中国、ロシア、カザフスタン、イランなどだ。こうした国々は「人権問題や経済制裁の課題を抱える」と、英コンサルタント会社グッド・ガバナンス・キャピタルのベン・アッシュビー氏らは警告する。
暗号資産のESG対応を進める動きもある。
4月上旬、業界関係者や非営利団体などが中心となり、暗号資産版の「パリ協定(温暖化対策の国際枠組み)」を目指す「クリプト・クライメート・アコード(暗号資産気候協定)」を立ち上げた。2025年までに消費電力を100%再生可能エネルギーに切り替え、40年までに温暖化ガス排出量の実質ゼロを実現する計画だ。すでに暗号資産関連企業のリップルやコンセンサス、米民主党の大統領候補に名のりを挙げたこともある富豪のトム・ステイヤー氏などが賛同者に名を連ねた。
政府による法整備などは後手に回っているが、アート界での「非代替性トークン(NFT)」の台頭など暗号資産の活用幅は確実に広がっている。リスクはあっても、その仕組みはなんらかの形で生き残っていくことになるだろう。温暖化対策の効いた暗号資産のいち早い実現が求められている。
(ニューヨーク=清水石珠実)