中国ハイテク新興に逆風 88社新規上場取りやめ
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ソース: https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM121120S1A410C2000000/
保存日:2021/4/12 19:38 (2021/4/13 5:28 更新) [有料会員限定]
【上海=張勇祥】中国の新興企業に逆風が吹いている。ハイテク企業向け市場「科創板」では2021年に入り、88社が上場手続きを取りやめた。10日に中国政府がアリババ集団に巨額罰金を科すなどハイテク企業を締め付ける方向に転じたほか、バイデン米政権下でも米中対立が続いていることが背景にある。統制強化が技術革新(イノベーション)の阻害要因になりかねない。
科創板は習近平(シー・ジンピン)国家主席の肝いりで19年に開設し、上場社数は260社に迫る。ここにきて中国を代表するユニコーン(企業価値が10億㌦=約1100億円以上の未上場企業)などが新規上場を中断・中止する事例が増えており、年初からの3カ月半で88社に達する。19年7月から20年末までの1年半の累計中止社数(64社)を大きく上回る。1~3月の世界の新規上場件数は25年ぶりの高水準となっている。
中国政府は技術覇権の確立を目的にイノベーションを奨励し、成長企業を資金調達面から後押しする戦略を続けてきた。ところがデジタル決済で市場を二分するアント・グループの上場差し止め以降、成長重視から中国共産党による統制に力点を置く戦略が明確になっている。
中国人民銀行(中央銀行)など金融当局は12日、アント・グループに対し3度目となる聴取を実施。アント・グループを金融持ち株会社に転換し、全ての金融事業を当局の監督下に置くよう定め、実施を求めた。
新規上場に関しては、中国証券監督管理委員会(証監会)が1月末、手続きを進めている企業に対する新しい規定を公表した。抜き打ち調査を可能にする規定で、問題企業を「狙い撃ち」できる内容だった。3月には証監会トップの易会満主席が「問題を持ちながらも上場を目指す企業は厳粛に処理する」と表明した。
企業は統制を強める中国政府の意向に積極的に従っている。アリババの張勇・会長兼最高経営責任者(CEO)は12日の会見で「積極的に規制当局の監督に協力していく」との姿勢を示した。香港市場でのアリババ株は12日、前週末比6.5%高となった。張氏が協力姿勢を示し、今回の罰金で処分が一巡するとの見方が広がった。ただ中国政府の締め付け姿勢は中長期的には株価の重荷となりかねない。
証監会の同規定は対象企業が自主的に新規上場を撤回できるとしており、2月から3月にかけて有力新興企業が相次いで上場手続きを取りやめた。
顔認証技術の開発を手掛ける依図科技のほか、自動運転向け高性能センサーLiDAR(ライダー)開発の上海禾賽科技などだ。両社とも企業価値は20億ドル規模とされる。こうした企業は取りやめの理由について「上場規則への対応に時間がかかる」(依図科技)などと公式には説明する。
上海証券取引所は4月2日、京東数字科技控股が新規上場に向けた手続きを中止したと発表した。同社は京東集団(JDドットコム)傘下で個人向け与信などアント・グループと似たビジネスを展開する。20年9月に科創板への上場を申請し、200億元(約3300億円強)を調達する見込みだった。
バイデン米政権の中国ハイテク企業への対立姿勢も逆風だ。米政権は8日、中国でスーパーコンピューターの開発を手掛ける企業や研究機関など7社・団体に事実上の禁輸措置を発動すると発表した。
バイデン政権も中国に対して強硬な姿勢を継続しており、中国の新興ハイテク企業は米国での事業展開の見直しを迫られる可能性が出ている。
株価も振るわない。科創板の主要上場企業50社で構成する「上証科創板50成分指数」は足元では1300を下回り、20年夏の高値から3割近く下回って推移する。世界株全体の値動きを示す「MSCI全世界株指数(ACWI)」が上昇を続けるのと対照的な値動きとなっている。