「技術リスク取らぬApple、テスラとの違い」ADL鈴木氏
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ソース: https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC041RI0U1A400C2000000/
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2021/4/8 5:00 [有料会員限定]

アーサー・ディ・リトル・ジャパンの鈴木裕人パートナー

日経産業新聞と日経クロステックの共同連載企画の第2弾です。百家争鳴のアップルカーの行方を展望しつつ、新たなテクノロジーを深掘りし、勃興するモビリティー産業の最前線に迫ります。

米アップルが電気自動車(EV)の開発を模索する中、よく比較されるのが米テスラである。似ているようで大きく異なる2社の開発戦略について、自動車産業に詳しいアーサー・ディ・リトル・ジャパンの鈴木裕人パートナーに聞いた。

――アップルとテスラの違いは何ですか。

「アップルは、基本的にテクノロジーリスクを取らない企業と見ている。要素技術が整う段階まで待って商品化するのがアップルの戦い方だ。iPhoneがそうだった。第3世代移動通信(3G)、液晶ディスプレーの低価格化など要素技術がそろい、手ごろな価格で売れるタイミングで仕掛けたわけだ。アップルがEVを開発するということは、EVも同じような段階になると考えたのだろう」

「テスラとは対照的だ。テスラはテクノロジーリスクを取ってなんぼの企業。既存の自動車メーカーから見て、技術的に尊敬の対象になる側面がある。まねをするのかはともかく。資金がない中であそこまでできたこともすごい」

【百家争鳴Appleカー】

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――アップルカーはどうなりますか。例えばレベル4の自動運転技術を採用するとの見方もあります。

「レベル4については採用しないと思う。テクノロジーリスクを取らないアップルが、いまだに成熟していないレベル4の技術を商品化するとは思えない」

「またレベル4の自動運転車の場合、ロボットタクシーのようなBtoB(企業間)の事業が主になることもある。アップルは基本的にBtoC(企業・消費者間)の事業を志向するのではないか」

――アップルがEVを開発する際の強みは何ですか。

「自動車で重要になる半導体とソフトの開発力に競争優位がある。最近、半導体不足で自動車生産に影響が生じているが、本質的には自動車業界がIT業界に半導体を買い負ける構図だ。おそらく今後も続く。アップルは半導体受託最大手の台湾TSMCとの交渉力がものすごくあると言われる。今後自動車にも必要になるだろう先端半導体に関しては、自動車メーカーよりもアップルの方が圧倒的に調達力がある」

「ソフトの開発リソースについても、アップルが優位です。日系自動車メーカーでソフト開発にしっかりと手を打っているのはトヨタ自動車くらい。他の自動車メーカーはなかなか厳しい状況だと思う。日系に限らず、ドイツ勢も結構厳しい面があるようだ」

――EV生産に関してアップルはiPhone同様に水平分業を志向し、工場を持たないとの見方があります。

「工場を持たないのがアップルの基本スタンスだと思うが、自動車産業でそれが通用するのかについては、議論があるところだ。何十万台規模の自動車を生産することのハードルはとても高い」

「個人的にはテスラのやり方が現実的な気はする。工場を居抜きで買って、自分たちで1回操業してみる。アップルが(EVに参入した頃の)テスラと最も違うのは、資金力があること。EVの開発において、その資金をどこに使うのか。工場を丸ごと持つのか、設備だけを持つのか。(iPhoneの生産を委託する)台湾・鴻海精密工業が米国にEV工場を設立したときに、それに対してAppleが出資したり数量を約束したりすることでリスクをシェアする手段もあるかもしれない」

――生産委託先の候補として、マグナ・シュタイヤー(オーストリア)が挙がります。トヨタ自動車やドイツBMWの「スープラ」「Z4」などを生産受託している老舗で、基本的に少量生産車が対象です。

「マグナについては、アップルがどれだけの販売量を想定するかによると思う。マグナの生産は熟練工が支えている部分がある。iPhoneのブランドポジションを考えると、アップルカーは英マクラーレンオートモーティブのような少量生産ではないだろう。多くの熟練工は、一朝一夕に集められません。マグナがアップルカーを受託できるかというと、なかなか難しい面があるかもしれない」

――中国の生産能力にはかなり余剰感があります。中国の余った工場を活用して、アップルカーを生産するのはどうですか。

「中国国営大手3社をはじめとした自動車工場の稼働率が低いことは大きな課題となっている。その生産能力を誰が押さえるのか、ということが水平分業の発火点になるかもしれない」

「例えば自動車産業への参入をもくろむ中国IT系企業と余った工場を有する自動車メーカーの連携が進む可能性はある。ただし、中国国内向けの車両生産にとどまるのではないか。輸出できるだけの競争力があるかというと、現時点でそこまでは……」

(聞き手は日経クロステック 清水直茂)