鴻海、EVも影の主役狙う 生産受託で「スマホ型」踏襲
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ソース: https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM238GW0T20C21A3000000/
保存日:2021/3/25 21:30 (2021/3/26 5:06 更新) [有料会員限定]
鴻海はEV業界でも存在感を高めようと、仲間づくりを急いでいる=ロイター
【台北=中村裕】台湾・鴻海(ホンハイ)精密工業が電気自動車(EV)事業にアクセルを大きく踏み込む。25日には台湾内外の1200社以上を集めて初のサプライヤー大会を開いた。後発の鴻海が狙うのはEVビジネスの大転換。スマートフォンに近いビジネスに変え、EV業界でも影響力を強めようと、その準備が着々と進む。
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■「アンドロイドカー」を造る
「我々はEV業界で新しいビジネスモデルを志向し、『アンドロイドカー』を造ることを計画している」。EV事業の最高経営責任者(CEO)を務める鄭顕聡氏はこう力を込める。
鄭氏は米フォード・モーターの中国子会社副総裁や、欧米フィアット・クライスラー・オートモービルズ(FCA、現ステランティス)の中国トップを務めるなど、自動車業界で40年を過ごした人物だ。自らがどっぷり漬かったこれまでの車造りを否定して、新たな事業モデルを前面に打ち出し、多くのEVメーカーの関心を集めている。
アンドロイドカーとは何か。それは、米グーグルがスマホメーカーに無償で提供した基本ソフト(OS)「アンドロイド」のビジネスモデルをイメージしたものだ。
スマホがまだ世界に普及していない2000年代後半、アンドロイドの登場がスマホ業界を大きく変えた。スマホの頭脳となるアンドロイドが無償で使えるようになったことで新興のスマホメーカーが続々と参入した。
小米(シャオミ)やOPPO(オッポ)、vivo(ビボ)など中国勢が代表例だ。レノボやソニーなど既存の大手メーカーを次々と蹴散らし、今や世界の上位を独占する存在になった。後発でもアンドロイドをベースに手軽にスマホ開発ができたためだ。生産も全て鴻海などの受託企業に任せることで投資負担を抑え、スマホが爆発的に普及した経緯がある。
■車メーカーの開発8割を代替
鴻海はEV業界でも、このスマホのビジネスモデルを狙う。スマホのアンドロイドに当たるEV開発用の無償で提供が可能なプラットフォーム「MIH」の準備を進めている。具体的には、車両開発の骨格となるシャシー(車体)の細かい寸法や規格のほか、自動運転などに使う高速通信規格「5G」対応の細かい通信規格など、スペックは鴻海が詳細に決める。これを世界中のEVメーカーに無償で使ってもらおうとの試みだ。
関係者によると、鴻海が無償提供するMIHは、車両開発全体の約8割をカバー。各EVメーカーは外観デザインなど残りの2割を自社で開発すればEVが完成するイメージだという。MIHを利用してもらう代わりに、生産は鴻海が全て引き受ける仕組みだ。
世界では今もEV業界への新規参入が続く。開発に特化し、巨額の投資が必要な工場は持ちたくないファブレスメーカーが大半だ。スマホの大量受託生産ビジネスで鳴らした鴻海はこうした点に目を付けた。MIHの提供で各社の開発負担を軽くできれば今後、スマホ同様に新興メーカーが続々と参入し、EVの普及が一気に弾みが付く可能性は否定できない。
中国や台湾の自動車、電機業界に詳しい、みずほ銀行の湯進主任研究員も「鴻海がEV業界のプラットフォーマーになる可能性は十分だ。華為技術(ファーウェイ)という強力な中国通信企業との連携も将来予想される。EVもスマホと同様に、中国と台湾が連携して生産を支配し、中台の企業が今後、業界の核になる」と指摘する。
EVは近い将来、高い通信技術を背負った巨大なスマホのようなものになる。スマホでは、鴻海は台湾の同業とiPhone生産を独占することに成功した。パソコンでも世界の8割強の生産を台湾企業が担い、安全保障にも直結するサーバーでも世界の9割弱の生産を担うなど、次々と「世界の生産」を飲み込んできた。
深刻な問題となった半導体でも今、世界の受託生産の6割強を台湾が担う。そして鴻海は新たに参入するEV業界でも影響力を強め「影の主役」になることを狙う。
経営トップの劉揚偉董事長(会長)はEV事業の規模が今後、現在のスマホ生産など主力事業を上回る可能性について「非常に高い」と述べている。鴻海は10月、MIHを使った新プラットフォームを公開する。「EV業界で初の試みとなる」(鄭CEO)。既存の車大手メーカーは今のところ、その動向を固唾をのんで見守るしかない。